軽量化と衝突安全性を両立した「センターピラーインナー」は
いかにして作られたのか?
日産 Infiniti Q50とスカイラインには、世界初の1.2GPa*級超ハイテン材(以下1.2GPa材)を使用した当社製センターピラーインナーとフロントルーフレールの2部品が採用されています。近年、自動車メーカーでは燃費向上に対応した軽量化のため、車体骨格に板厚が薄く高強度なハイテン材の採用を拡大しています。中でも最高強度にあたる超ハイテン材が1.2GPa材です。今回は、このセンターピラーインナーの開発に込められた工夫を紹介します。
*ギガパスカル
Product軽量化と衝突安全性を両立したセンターピラーインナー
軽量化と衝突安全性を両立させたセンターピラーインナー
前部座席と後部座席の間にあるセンターピラーインナーは、単に屋根を支えるだけではなく側面衝突時に乗員を守るための高い強度と衝撃を和らげる吸収性が求められています。当社は1.2GPa材を使用し、軽量化と衝突安全性の相反するニーズを同時に実現しました。ハイテン材は強度を上げると比例して伸びが低くなるため、プレス成形したときにワレやシワが発生しやすくなります。また、プレスで応力がかかるとスプリングバック現象(材料が元に戻ろうとする力)が大きくなるため、これらの防止に高度なプレス成形技術が必要となります。
Key Technology解析を活用したプレス成形技術
解析評価とプレス成形技術
1.2GPa材のセンターピラーインナーは形状が浅くカーブを描いているため、形状凍結性(プレス成形後、金型を開いた状態での製品形状の変化のこと)が悪く、通常のハイテン材(590MPa)に比べると約3倍もスプリングバックが発生します。そのため、金型には一段と高度な技術が求められます。当社は今回の1.2GPa材の材料開発に、自動車メーカーや高炉メーカーとともに携わってきました。成形解析や試作型を活用したトライを繰り返し評価して寸法精度対策の検討を行い製品形状を提案しましたが、それでもプレス成形した際のスプリングバック現象は当初は完全には収まりませんでした。量産立ち上げ日程が迫る中で成形実現の決め手になったのは、長年培ってきた超ハイテン材のプレス成形技術ノウハウでした。0.1ミリ単位での金型の調整や加工工程などを見直し、試行錯誤の末ようやく製品形状が安定しました。
自動車メーカーでは、超ハイテン材の使用比率を高める計画をしています。当社としても基礎技術を蓄え、成形解析および活用技術を高めてさらなるプレス成型技術の向上に取り組みます。
Achievement世界初となる1.2GPa材と既存のハイテン材を接合させるテーラードブランク工法を確立
長年培った成形技術のノウハウにより実現
ハイテン材には強度が上がると溶接が難しくなる特性があります。これは材料に含まれたカーボンが原因であり、高ハイテン化によりカーボン量が増えるためです。これに加えて今回採用したレーザー溶接は、レーザー出力や照射距離などの条件が加わり、技術的難易度が高まります。様々なトライを試みて最適な溶接条件を見出し、安定した溶接品質を確保しながら、世界初となる1.2GPa材と既存のハイテン材を接合させるテーラードブランク工法(以下TBW)を確立しました。
Project Members Voices担当者たちの挑戦
解析
主担 鈴木 一彰
先行技術開発センター 車体部品グループ
※所属部署、役職は2014年11月当時
寸法精度対策のため、あらゆる方法をシミュレーション
剛1.2GPa材を使用するにあたり、まずは既存の金型や実験型を活用して解析精度*の検証を行いました。成形解析を繰り返す中で980MPa材と数値が近いことが分かり、解析を活用して成形工法や寸法精度を検討しました。しかし、既存の成形工法では100ミリもスプリングバックします。そのため、寸法精度を出すための新たな成形工法を検討し、スプリングバックをコントロールできるように試行錯誤を重ねました。それでも成形解析だけでは寸法精度対策をしきれず、後工程に苦労を掛けてしまいました。今後は現在進めているスプリングバック現象の原因となる応力の緩和対策を車体技術・生産技術・工機工場の各部門と連携して金型設計段階で折込み、製品の品質を早期に安定させます。
*成形解析と実際のパネルの差異
設計
宮原 潤一
車体技術開発センター サイマル部品グループ
※所属部署、役職は2014年11月当時
得意先、生産工場の両方にとって最適な案を出す過程がやりがい
得意先から提示された製品要件に対して、生産技術開発センターや工機工場とともに様々な角度から検討を重ね、生産工場が作りやすい製品形状を考慮して製造要件の提案をしてきました。初の1.2GPa材部品という難しさに加え、早期に仕様を決めなければならないプレッシャーもありました。仕様決めにあたっては製品形状の一つひとつに性能要件などがあるため、得意先の納得する最適案を導き出すことに最も苦労しましたが、やりがいでもありました。今後はさらにいろいろな経験を積んで、生産工程での作りにくさを判断できる知見を深め、性能・コスト・生産性のバランスの取れた最適仕様を迅速に提案していきます。
生産
望月 広仁
生産技術開発センター 生産技術グループ
※所属部署、役職は2014年11月当時
実際に現場で製品を見ながら解析データを構築することが大切
1.2GPa材のプレス成形では要求形状を出すために金型調整を通常の何倍も繰り返しました。机上でどんなに精度の良いシミュレーションや解析データを蓄積しようとしても限界があります。実際に現場で製品を見ながら工機部門の経験や情報を加味した解析データの構築をしていくことが大切だと思います。どんなに難しい材料であっても「当社ではできません」とは絶対に言いたくありません。1.2GPa材によるプレス成形の経験を活かして、今後も精度の良い金型を工場に提供していきます。